「好きだよ。」 あれを言ったときのスネイプの顔を一生忘れることはないだろう。 やると決めたらやる男。 そんな異名を持っているわけでも自分にとっての座右の銘でもなかったが、 今日決行すると決めから例え何があってもしてみせると心に決めていた。 いつも4人でする悪戯。 1人でするかと思うと緊張と興奮で顔が赤くなりそうだった。 魔法薬学の時間。 アイツがいるスリザリンとの合同授業。 いつもなら一番やる気の出ない授業だが、今日は違う。 魔法薬学は合同作業をすることが多かった、すなわちチャンスも多いだう。 授業が始まる前から僕はそのときのための準備をしていた。 仲間達に見つからぬよう、 ノート用の羊皮紙を千切り慎重に出来るだけ丁寧にその紙に一言書く。 『この授業が終わった後 校舎裏で来てください。 大事な話があります。 ジェームズ・ポッター』 なんともベタな言葉。 ひとりでに笑えた。 スネイプに敬語なんて使うのは癪だったが、 これも悪戯のためだと思えば、まあ仕方がない。 あとはこれを渡すだけだ。 しんと静かな教室の中焦る心を抑えつつ、 その時をさながら獲物を刈る虎のようにひっそりと待つ。 スネイプは涼しい顔をして授業を受けている。 他の生徒とは違い眠そうに目をしょぼつかせずに、 凛とした姿勢で熱心にペンを動かしていた。 これから起こることも知らずにのん気な奴。 あの涼しい顔がどんな風に歪むのかジェームズの頭の中はそればかりだった。 教授が鍋を取り出すように生徒に言う。 きた。とジェームズは興奮で笑いそうになる口を片手で押さえ思った。 各々鍋を取り出し、教室は一時騒然となる。 中には実技が苦手な馬鹿な奴もいて、眉間にしわを寄せているものもいれば、 友達と一緒に作業が出きると言うことで笑顔を浮かべているものなど、 多種多様だ。 教授が一つ手を打つ。 それだけで騒がしかった教室が一瞬にして静けさを取り戻した。 そのことに満足気に微笑むと一つ頷き、薬品の注意点など述べながら、 それでは作業に取り掛かりなさいという言葉を言い終わったとたん、 一斉に席を立ち移動する。 魔法薬学にはスリザリン生とグリフィンドール生2人1組になって 共同に作業するという暗黙の了解があった。 そのことに対立しているスリザリンとグリフィンドールでは よく思わない生徒も多数いたが、時が経てばやはり人間、 自然と友達なんてのも出来てきて、 この時期になるともう異を唱える人も居なくなっていた。 まあ、我ら悪戯仕掛け人4人衆はスリザリンと仲良くする気なんてさらさらなく、 いつも適当にその時間を過ごしていたのだが、 今日という日はこの合同作業に感謝せざるをえない。 僕は机からすくっと立ち上がり、ごく自然を装いスネイプの近くによる。 スネイプは僕の存在を認めると殊更嫌そうにしたが、そんなのは関係ない。 「やあ。」 僕が軽く手をあげ言ったがスネイプはまるで聞こえていないように 傍にある薬品に手をつける。 いつもの僕なら怒りでその薬品を爆発させたり、 スネイプが触れた瞬間にその手を腫れさせたりしたろうが、 今日の僕はこの後にもっとでかい悪戯を計画していたので、違った。 スネイプが無意味に片方の手で杖を持っているのをみて心の中で嘲笑する。 なんて馬鹿なやつだろう。 「スネイプ、一緒に作業しよう。」 「断る。」 もう一度声をかけた後、間髪居れずにそう言われたが、 どっちみちもう教室の中はもう大方ペアが決まっていたことを目線で知らせると スネイプはふんっと鼻を鳴らしまた薬品のほうに顔を向けた。 しばらくはお互い会話もせず、 作業を進めていたが作業も中盤に差し掛かった時点で スネイプが鍋を回し終えたことを見てからあのメモ書きをポケットの中から出すと、 スネイプの手を引き強引にそれを握りこませる。 「貴様なにを・・」 その問いには答えずにただ微笑みだけ返し、 スネイプの視線を無視し、また先ほどやっていた薬の調合に戻った。 スネイプの瞳が困惑で揺れたのが愉快で仕方が無かった。 その後何度かスネイプは何かいいたそうに口を広げたが、 それは声に出されずに合同作業の時間は教授のまた手を打つ合図で終わりをつげた。 教授は完成された薬品の使い方なんかを説明している。 時計の長針が一つ動くたびに僕はせわしなく顔を上下させる。 チャイムが鳴る音をいつもより心待ちに待っていた。 意味も無く羽ペンをくるくると人差し指と中指とで回す。 そして、とうとう待ちに待ったその時が来た。 チャイムが鳴る音を耳に入れた瞬間 顔がにやけるのを抑えられない。 そのまま、席を立ち扉へと向かう。 「ジェームズ!」 後ろで怪訝そうな顔で呼ぶシリウスを尻目に、 気づかないふりをして湿っぽい教室の外に出る生徒の流れにそい 僕も廊下へと出て行った。 生徒が授業から開放されて、騒然としている廊下を一人で歩く。 そして、これから起こりうるであろうことを想像したら鼻歌なんて出そうで口元に手を置く。 廊下がやけに長く感じられ、次第に歩調も幾分速くなる。 廊下から中庭を通じ外に出て、太陽が遮断されて薄暗い校舎裏へと歩いていく。 辿り着くと一つ深呼吸をして壁にもたれかかる。 下にある小石なんかを蹴っていたらまるで、自分が本当に告白をしに来たような感じがして、 一人笑えた。 いつも校舎裏でタバコを吸っているから口元が寂しく感じる。 ポケットを探っても何も出てこないことにため息をつきながら、 本当にスネイプはやってくるだろうかという疑問すら思い出してきた。 悪戯を考えた時から今までの時間スネイプがやってくると信じて疑っていなかったが、 なるほど、もし自分がスネイプとして考えるならば毎日悪戯をされてきて、 突然な誘いを罠だと思い警戒するのは自然な考えな気がする。 そう思うと待っているのも途端に馬鹿らしく思えてきて、 もういこうかと歩きだした瞬間だった。 黒い髪がはらりと風になびいている。 「スネイプ・・・」 なんて馬鹿なんだろう。 目は見開いて今から演技をしている自分に心の中で笑った。