「 篝  火  花 」






『好きです、』


その時のことはよく覚えていなかった。

ただ気持ちが溢れ出して、

止めることが出来なかった。








              






、テストどうだった?」


「・・・うん。」


少しはにかみながらそうは答えた。
そして、目線をおもむろに目前に在る張り紙へと移す。
日本人のには少々見づらい英語の筆記体。
魔法薬学のすぐ下にの文字が刻まれていた。


「また、あの秀才グレンジャーに勝ったなんて・・・」


隣にいる友人は口を開けて、
驚いたようなそれでいてこのことが当然のような微妙な顔をしていた。
友人の顔を見ていると段々も誇らしげな気分になる。
それと同時にその一つのただの紙切れの魔法薬学の文字が書かれているすぐ下が
自分の名前ということに安心した。
今回は危ないと思っていたから。


は、別段頭のいいほうではない。
・・・というより頭の出来はどちらかと言うと悪かった。
しかし、そのが入学してから現在、5年生になるまで、魔法薬学の科目ただ一つだけは
ずっと、一番を取り続けている。
グレンジャーとは違いもともと頭が良くはないのだから、
一番を取る努力といったら並なものではない。
今回は全ての科目を捨ててまで魔法薬学の勉強に取り組んだ。
夜中の1時まで勉強し、朝4時に起きてまた勉強に励む。
授業中も例外ではなかった。魔法薬学以外の授業もこっそりと十の薬草の名前が書かれている
紙を持って行き、一つの授業で10個ずつ、一日に60個もの薬草を覚えることをノルマとし、
是が非でも覚えようと努力を重ねて来た結果だから、この一番は当然のものなのかもしれない。
その反動として、魔法薬学以外の結果はもはや火を見るよりも明らかで、
戻って来た教科の一つ以外は全て日本で言うところの赤点であった。


『あんた何でそんなに魔法薬学にこだわるの?』


かつて、友人にこう問われた。


『魔法薬学が好きだから』


そう答えた。



―――違う。


魔法薬学にこだわってるんじゃない。
魔法薬学なんて好きじゃない。
薬草の名前なんて似たようなものがうじゃうじゃあるし、
葉っぱの形なんてどれも似たようなもの。
性能だってそんなの興味なんてないし。
実際使ったりなんかしない。
薬草独特の匂いも苦手だった。
だから、魔法薬学が特別な教科なんかじゃない。



―――違うの。


魔法薬学じゃなくて、
スネイプ教授が。
スリザリンの寮監で魔法薬学の先生のセブルス・スネイプが


私にとって特別。









魔法薬学の授業中


は特に目立った行動をしない。
ハーマイオニーのように授業中率先して手を上げることもなければ、
友人とお喋りするわけでもないし、ネビルのように大きな失敗をすることもない。
かといって、薬草の調合で完成した物が素晴らしい出来ばえになるわけでもなかった。
ごく一般の普通の可もなく不可もないようなそんな生徒。
だから、セブルス・スネイプにの名を覚えていられていないかもしれない。
でも、それでもは特にそのことに対して不満を持っていなかった。
セブルス・スネイプという人物と一緒にいられること。
同じ空間で在るということ。
それだけで満足で、それだけで幸福だった。
・・・はずだったのに。






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