「 カメレオンの恋 」


その時、僕はその時間、頭が可笑しかったのだと思う。


それは、その授業が1時間目で
まだ、頭が覚醒していなかったからかもしれないし、



その日が、夏休みが終わってすぐの事だからかもしれない。

とにかくその日のその時間とても不可解な行動をしていた。






魔法薬学。
新学期の最初の時間。

何度見てもプリントに書かれた紙切れはその事実を覆すことはなく、

しかし、やりきれない気持ちでまた、視線を下に落とす。



待ちに待った新学期だが、
最初の授業早々嫌味をたらたら言われるかと思うと、
気持ちは沈んで行く。



その様子を見、赤毛の友人は肩を叩き励ましてくれたが、
友人の笑顔はあきらかに口元が変にピクピクと動き、眉間に皺を寄せ、
口にこそ出していないが、友人も嫌だと言うことが顔全体から伺えた。


ここ、ホグワーツの生徒の約7.5割以上は魔法薬学が嫌いである。
それは、語らずともわかる事実だった。


特に、彼が嫌悪するグリフィンドール生にとっては
新学期早々減点されてしまうと思うと、ハリーでなくても、気は沈むだろう。




面持ち緊張しながら、魔法薬学の授業をする教室へと向かった。
コンクリートの床が歩くと広い廊下に反響してコツコツと音を鳴らす。
次第に視界は薄暗くなり、地下へと繋がる階段にたどり着いた。
石で出来た階段と、石で出来た壁。
降りながら石と石の細かな隙間を撫でていく。
ひんやりとした感触が心地よく、気持ちが良かった。
いつも、この階段を降りていくときが、ハリーにとって一番不思議な気持ちだった。
魔法薬学の授業を嫌がっているのに、この空間へと入っていくのが嬉しい気持ちがした。
セブルス・スネイプは嫌いだ。
でも、地下室は好き。
セブルス・スネイプの居る地下室は嫌い。
でも、地下室の静かで心地よい孤独感はよかった。


ハリーは階段を降りながら数を数える。
、8、9、10、
ここの階段は全部で26段。
わかっているけど、数えてしまう。
最初に数え始めたのはいつだっただろうか。
数えてみて、やけに長い階段だと実感したものだ。
そこで、やっと少し自分の居場所へと帰ってこれた気がした。
夏休み中にはやらなかった行動。
しなかった習慣。
やはり、ハリーにとって地下室は特別で、心地よい居場所なのだ。
出来れば、スネイプから奪い取ってやりたいほどに。


「どうしたんだい?そんなに笑って・・・」


気がつけば赤毛の友人がいぶかしみながらこちらを見ていた。
眉間に皺が出来て、こちらの顔を覗き込む。
友人は気持ち悪い、と苦々しげに言った。
気がつかないうちにどうやら口元を緩めてたみたいだった。
僕の行動は明らかに異常だっただろう。
だって、今から魔法薬学の授業を受けに行かなきゃいけない。
僕の“笑”は明らかにおかしい。
でも、しょうがない。
ほんとに想像しちゃったんだ。
僕が、セブルス・スネイプから地下室を奪い取るところを。
最大の悪戯をするところを。
思い浮かべちゃったから。
それは、とてつもなくスリリングで愉快なことだと感じたんだ。
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