「 紅 茶 」
「シリウス、」
僕の呼びかけに君はゆっくりと振り返る。
黒髪がゆらりと揺れた。
「ん?」
無表情のままこちらへと鋭い眼光を向けられ、
ぞくっと身体が一つ震える。
「コレ。」
その事をおくびにも出さずにアンティークなカップを一つシリウスに見せた。
シリウスのあの純粋で強い強い瞳は多分いつになってもなれることはないだろうと思う。
苦手な理由は多分僕がシリウスに嘘をついているからだと思うけど、
真実をシリウスにも他のジェームズやピーターやリリーにも誰にも語るつもりはなかった。
僕は弱くて醜いから、嘘をつくしかないと。
過去も未来も今この時も嘘がばれるかもしれないという怯えはあるが、
嫌われるよりは全然マシだから。
紅茶やコーヒーはインスタントのしか買えないけど、
せめて、その入れ物はと家から持ってきたアンティークのティーセット。
カチカチ音を鳴らしてリーマスは手際よく自分のとシリウスの分を用意していった。
シリウスは先程振り返ってから、その後すぐにまた、溜めていて山のようになった宿題へと手を付けている。
シリウスの後姿はなぜだかリーマスの心に安心を覚えた。
あの灰色でそれでも少し蒼がかった強い瞳が見えないせいかもしれない。
「シリウス、少し休んだら?」
広い背中へと声を掛けるが、熱中しすぎているせいか?
返事はなかった。
その事に一つため息を付きながら、用意が出来たカップやらを
山のように積み重なる紙に触れない用に注意しながらそれでも少しでもこちらを向いて欲しくて、
カチャンと大きめに音を立てながら置く。
シリウスの瞳がいつもより開いたのが見えた。
「・・・ありがとう。」
あまり見せない微笑を口元へと浮かばせながらその言葉をシリウスが言ったからだろうか?
いつもよりシリウスが柔らかく見えて、それがなんか歯痒くて
視線をテーブルのケーキを見つめる。
なぜだかわからないけど、ドキドキ胸が高鳴った。