「 ジ レ ン マ 」


『庭の草取りをしてちょうだい。』



そう叔母に言われてからすでに6時間が経っていた。


陽炎が目の前をゆらゆらと揺らめいている。
真四角に囲まれた檻のような高い塀がある庭に、一面緑の絨毯。



ハリーはただひたすらその緑と向き合い機械的に手を動かす。
額から雫が流れ落ちた。
ハリーの膝丈ほどある目の前の草は太陽の光を浴び、いきいきと多い茂っているのを
横目でちらりと見、眉間に皺を寄せた。
6時間ぶっ通しで続けても、まだ半分以上が緑で染まっている。
今の自分にとっては、その存在は鬱陶しい以外の何者でもなく、
だからと言って願っただけでは消えるものでもなく、
一つ溜息をつきまた、地面から草を抜く。


硬い土の中から草を抜く事は実はかなりの重労働で、
まるで、体全体から汗が吹き出しているようだった。


気持ち悪い。


何年も前に従兄弟に貰った今ではもうよれよれの白いポリエステルで出来たポロシャツが
肌に張り付く感覚がたまらなく気持ち悪い。


額から頬そして首元へと垂れる水滴も、
炎天下の中ずっと作業し続けたせいで熱をもった赤い肌も、
腰にくるちりちりとした痛みや
朝から何も食べていないからだろうか、ふらふらとした感覚も、
全てがあの行為に繋がるようで、


気持ちが悪かった。


そう考えた途端、体躯がふらりと横に揺れた。
そのまま、重力に従い地面に吸い寄せられてゆくのをハリーは他人事の様に感じていた。


目の前が揺らぎ、緑と白い光を視界に掠め取る。
その先にちらりと何かが横切ったように感じたが、それは気のせいだろう。
何か・・・自分の感じた幻影はあまりにもくだらなく、あまりにも忠実でハリーは笑った。


そのまま、意識が遠のくのを感じそっと瞳を閉じた。



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