「 ア ベ コ ベ 」
あれから、
キスをされてから、
何も変わらないいつもの日が続いた。
変わったとすれば、
ジェームズが僕を見るときに
以前のような敵意まるだしの顔じゃなくて、
蔑んだ様な見下した笑みをその顔にのせることだった。
悲しかった。
なんで、なんで、と言う思いが募る。
あいつにそんな笑みをされたって、どうってことないはずなのに。
なんでこんなに胸が痛いんだろう、
どうして、
コトリと鉛筆が落ちる音がセブルスの耳に届いた。
そして、今は授業中で教室の中と言う事を理解し、
それと同様にジェームズへのどうしようもないこの気持ちをふと諒解した。
僕は、ジェームズに恋をしている。
分厚い黄土がかった教科書の端に小さな円が一つ出来た。
それは、次第に滲み円が大きくなっていく。
そして、あちらこちらへと円がまばらに出て行くのを、
揺れる瞳とともにぼんやりとセブルスはただ見ていた。
僕は、
恋をする前に、
失恋したようだった。
瞳が一つ揺れ雫が落ち、また円が新しく出来上がる。
ここが、教室ではなかったら、
きっと自分は大笑いをあげているだろう。
泣きながら無様に笑っている自分が想像出来て、
唇をひしと噛み締めた。
笑えた。
ここが、教室でよかった。
じゃなければ、僕は今よりもっと無様な格好だっただろう。
ここの席がグリフィンドールから離れて、尚且つスリザリンでも一番後ろの席でよかった。
じゃなければ、僕が流している涙を皆に見られていただろう。
ここが、教室じゃなければよかった。
そうならば、泣いて笑って気持ちに整理がつけただろう。
ここが、グリフィンドールから離れている、一番後ろの席じゃなければよかった。
そうならば、あいつに気付いてもらって僕の心を少しでも理解してくれたかもしれない。
全てが矛盾していた。
最初から、
あいつを見てから今この一瞬まで、
なにからなにまで、
矛盾だらけの思いだと思った。
そして、この思いに終わりはないのだろうと
そう、思った。