「 E R I C A 」
気がつけば自然と木の枝みたいな細っこい腕を掴んでいて・・・
・・・白く清潔感漂う医務室にぽつりぽつりと垂れる赤い液体の存在が
朦朧とした意識の中、やけに大きく感じられた。
「何をしている・・・・」
今にも折れそうな細い真っ白な腕から一筋に入った赤い線と
自分の握っているもう片方の腕に掴んである刃物を見て
くらりと眩暈を催す。
何をしていたかなんて、そんな問いは愚問だったのはわかっていた。
自分らしくない。
普段ならそんな事、一目で見れば見当がつくことを問いかけるなんてこと・・・
しない。
少し血に酔っているのかもしれなかった。
それでも、不可思議な自分の動揺をどこか冷静に受け止めている自分もいて、
自分の腕からぽたりぽたりと流れ赤い水溜りを床に作る原因の切り傷を治療しなければという思いも
あまり今は役に立たない頭の片隅にはあった。
まだ何も言わない少女をちらりとみて、
また、くらりと眩暈がする。
俯いているかと思われた少女は自分の予想に反して、
やや細い切れ長で闇色をした瞳をじっとこちらに向け、
まるで挑むかのように、赤い口元に孔を描き。
微笑んでいた。
息が詰まる思いがして、少女から視線を離すと、
不意に風を切る音。
『 リ ス カ 』
すぐ近くで女にしては少し低めのかすれた声で囁かれて、
驚いて振り向けば、
唇に柔らかい感触。
口を開け呆然と私が立っているのを見て
今度はクスクスと声を出して少女は笑った。
かぁっと顔に血が逆流するのを感じて、
それは、怒りなのか恥ずかしさからかよくわからなかったが、
とにかく、ここに来たことを早くも後悔していた。